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ビジネス視点でとらえる遺伝子検査

公開日: 2024.04.17

医療分野

ビジネス視点でとらえる遺伝子検査

目次

近年、がんをはじめとする各種疾病の発症リスクを知るために「遺伝子検査」を活用する動きが進んでいます。そして「遺伝子検査」から得られたデータを、さまざまな治療や創薬に活用する動きは、医療分野で注目を集めています。 

医療業界では、「遺伝子検査」をビジネスとしてみた場合に、どのような展開が進められるのでしょうか。遺伝子検査ビジネスについて、お伝えします。

 

遺伝子検査ビジネスとは

遺伝子検査ビジネスとは、個人の遺伝子情報を解析することで、個人の健康増進に役立てたり、個人の同意を得たうえで、医療分野に役立つ遺伝子にかかわる情報などを提供するビジネスのことです。疾病の発症メカニズムの解明や創薬、遺伝子の型に応じたオーダーメイド医療の確立のような分野で活用されています。近年は、遺伝子解析技術の発展により遺伝子解析コストが低減したため、遺伝子検査ビジネスは急速に成長しています。 

日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」においては、下記の検査を「遺伝子関連検査」と定義しています。

遺伝子検査に関するコンテンツはこちら:遺伝子検査とは

 

病原体遺伝子検査(病原体核酸検査)

ヒトに感染症を引き起こす外来性の病原体(ウイルス,細菌等微生物)の核酸(DNA あるいはRNA)を検出・解析する検査。

 

ヒト体細胞遺伝子検査(体細胞遺伝子検査)

がん細胞特有の遺伝子の構造異常などを検出する検査。遺伝子発現解析などの疾患病変部・組織に限った、病状とともに変化し得る一時的な遺伝子情報を明らかにする検査。

 

ヒト遺伝学的検査(遺伝学的検査)

単一遺伝子疾患、多因子疾患、薬物等の効果・副作用・代謝、個人識別に関わる遺伝学的検査など、ゲノムおよびミトコンドリア内の原則的に生涯変化しない個体が、生来的に保有する遺伝学的情報(生殖細胞系列の遺伝子解析より明らかにされる情報)を明らかにする検査。

遺伝子検査ビジネス市場は急成長しており、調査機関IMARC Groupでは、遺伝子検査ビジネス市場が2023年から2028年の間に10.37%の成長率を示し、2028年までに290億米ドルの市場規模に達すると予測しています。日本国内でも株式会社富士経済が、ゲノム・遺伝子解析関連サービス市場は、2030年には2021年の2.5倍にあたる526億円になると予測しています。

※IMARC Group公表数値より作成 

遺伝子検査ビジネスの現状

今現在、遺伝子検査ビジネスでは、どのようなビジネスが進んでいるのでしょうか。遺伝子検査ビジネスとして進められている取り組みについて紹介します。 

「遺伝子検査」と聞くと、消費者向けの検査サービスをイメージする方も多いと思いますが、医療分野における活用が急速に進んでいます。以下に事例を提示します。

分子診断

分子診断は、組織や体液に含まれるたんぱく質、DNA、RNAなどを調べることによって、疾患を特定するプロセスのことです。近年、病気を早期発見するために、新しいバイオ技術の活用が進んでいます。たとえば、破壊されたり死滅したりした細胞に由来する血中のDNA「セルフリーDNA(cfDNA)」を解析することで、既存の治療法が使えない場合の新たな治療法や臨床試験(治験)の選択肢について、臨床的アドバイスが提供できるようになっています。

遺伝子診断・検査

遺伝子診断・検査サービスでは、がんや心臓病など個人の病気の遺伝的リスクを突き止めるため、さまざまな属性での多様な遺伝子情報を収集しています。この分野での多様性が、さまざまな人種や体質に応じた疾患の知見につながるため、重要なデータとなります。これらの遺伝子情報は最終的に「バイオバンク」に提供されるなどで集約され、医学研究に活用されています。 

精密医療

精密医療に関しては、遺伝子情報を活用して、患者の身体への負担が少ない治療や、患者の体質に最も効果が高いと考えられる投薬を行う動きが進んでいます。処方薬の有効性や治療効果のモニタリングを改善するための、新しいバイオ技術や機械学習のアルゴリズムの活用なども進んでいます。 

リプロダクティブヘルス

リプロダクティブヘルスは性や子供を産むことにおいて、身体的・精神的・社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられることを示すものです。体外受精や、妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)など、さまざまな検査が手掛けられています。 

シーケンシング・細胞解析

シーケンシングは、次世代の遺伝子情報読み取り技術のことです。シーケンシングによる細胞解析は、旧来のゲノム構造(塩基配列)などに関する学問分野にとどまらず、ゲノムやたんぱく質、RNAなど生体にあるさまざまな物質を一括して解析する手法に進化しています。細胞の多様性や不均一性を見るための単一細胞(シングルセル)解析や、未知の遺伝子・たんぱく質の機能・遺伝子間やたんぱく質間の相互作用を解析する全転写産物(トランスクリプトーム)解析、たんぱく質の構造を解析する構造解析などの解析技術が進められています。 

アグリゲノミクス

アグリゲノミクスは遺伝子情報の読み取り技術を活用して、より健康で生産性の高い作物や家畜を生み出すためのビジネスです。農家や畜産家と研究者は「DNAマーカー(目印)」を使って、病気に強い性質や栄養価の高い性質などを強化するなどの対応を進めています。このような品質改良により、気象条件や病気に強い品種改良を行い、収穫量・生産量を増加させる品種が作られます。 

 

医療機関における遺伝子検査導入メリット

近年、技術の進歩とともに遺伝子検査の精度は向上し、コストは低減しています。

そのため医療機関における遺伝子検査導入メリットが大きくなり、今後ますます導入が進むと考えられています。では、医療機関が遺伝子検査導入を促進させるメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。

 

1. 患者に対する質の高い医療提供

まずは患者に対して納得感が高い、質の高い医療提供が可能となります。

遺伝子検査を実施することで、患者個人の体質に応じた個別の治療法が選べ、副作用が少なく効きやすい投薬も可能となります。また従来の検査では発見が難しかったり、効果的な治療法が確立されていなかったりした難治性疾患に対しても、遺伝子検査による新たな治療法に関する研究開発が進められています。 

2. 医療現場での効率化

次に、医療現場にも効率化というメリットが生じます。

遺伝子検査は従来の検査と比べて短時間で結果を得られるため、医療現場の効率化に貢献できます。さらに遺伝子検査での診断が容易になると、さまざまな検査の手続きが軽減できるようになります。医師や看護師の負担が軽減することで、より質の高い医療提供に注力できるようになります。さらに遺伝子検査データが蓄積されると、これまで発見されていなかった疾患のメカニズムや新たな治療法の開発に役立てることにもつながります。 

3. 患者満足度の向上

遺伝子検査を実施することで、患者の体質に応じたオーダーメイド医療が提供できるようになり、患者の満足度向上につながります。また遺伝子検査で自身の体質や疾病発症のリスクを可視化できるため、治療に対する不安や疑問を軽減できます。さらに遺伝子検査結果に基づいた、疾病発症対策となる生活習慣改善策を把握することで、患者自身が積極的に健康増進に取り組めるようになります。このような患者の満足度向上は、最新技術を取り入れた医療機関の信頼感の向上につながります。 

4. 競争力の強化/収益拡大

上記のように、評価される最新技術を導入することで地域社会や業界内で高い評価が得られます。すると優秀な医師や研究者を招聘できるようになり、新たな医療技術の開発に貢献でき、他の医療機関との競争力の強化につながります。 

また遺伝子検査サービスには、自由診療による収益拡大というメリットも存在します。2024年6月から、診療報酬の改定が行われます。診療報酬本体は0.88%のプラス改定となりますが、薬価は1.00%のマイナス改定となっているため、トータルで見ると0.12%のマイナスとなります。一方、遺伝子検査などの自由診療は、診療報酬の改定の対象外となるため、自由診療の拡大は医療機関の利益拡大に寄与する取り組みとなります。外国人患者向けに遺伝子検査サービスを提供すれば、医療ツーリズムとして海外からも利用者を獲得できるようになるのです。

このように医療機関が遺伝子検査導入を促進させるメリットは、患者への質の高い医療提供、医療現場の効率化、患者満足度の向上、競争力の強化/収益拡大など多岐にわたります。当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock ®」を導入しているNTT東日本関東病院では、遺伝子検査の科学的な正確性が高まったことで、信頼性が圧倒的に高くなったと評価しています。 

同病院の郡司俊秋副院長は当社の取材に対し、以下のように答えています。

糖尿病の発症に関わる遺伝子領域は100種類以上ありますが、従来の遺伝子検査では確認しやすい数種類のみを抽出して「発症の可能性」を示していました。しかし、関係が深いとされる遺伝子は毎年のように発見されています。常に最新の知見をもって最新の情報に更新している「Genovision Dock ®」だから、信頼性が圧倒的に高くなっているものと評価しています。 

また、佐々部典子医師は生活習慣病の発症要因の約7割が生活習慣に起因するものだから、発症予防のためには生活習慣を改善する余地は十分あると伝えています。実際、遺伝子検査の結果で糖尿病の発症リスクが高くても、発症していない人もいます。そのような人は、発症しにくい生活習慣を保っている可能性が高いと考えられます。そのため、ご自分の遺伝子検査でリスクの高い疾病を把握して、しっかりと生活習慣を改善して予防対策を指導するためにも、人間ドックを活用していただければと考えます。 

今後、遺伝子検査は医療現場において重要なツールとなり、ますます導入が進むことが予想されます。  

医療分野における遺伝子検査活用事例

それでは医療の現場では、遺伝子検査をどのように活用しているのでしょうか。

実際の医療機関における、遺伝子検査の活用事例を紹介します。

 

1. がんの診断・治療

既にがん治療の遺伝子検査においては保険適用が進んでおり、活用はさまざまな医療機関で進んでいます。 

たとえば国立がん研究センターでは、「NCC-CGP」(NCCがんゲノムプロファイリング)と呼ばれる、次世代シークエンサーを用いた大規模な遺伝子パネル検査が実施されています。そのため肺がん患者に対しては、肺がんのかかりやすさの判定に使われる「EGFR遺伝子変異」を検査して、陽性であることが確認された場合には、EGFR阻害薬を投与するような治療が進められています。 

また慶應義塾大学医学部附属病院では、乳がん患者に対して遺伝子検査に基づいた術後補助化学療法の選択支援が実施されています。手術時に切除した乳がん組織を、マイクロアレイという手法により95種類の遺伝子発現を分析し、再発リスクを「低リスク」「高リスク」に分類します。その結果をふまえて、抗がん薬治療を行うべきかどうかの参考としています。 

出典:国立がん研究センター 「NCC-CGP」(NCCがんゲノムプロファイリング)
  :慶應義塾大学医学部付属病院 乳がん患者に対して遺伝子検査に基づいた術後補助化学療法の選択支援

2. 難治性疾患の診断・治療に対する研究開発

がん以外での事例としては、難治性疾患の診断・治療に対するゲノム医療の研究開発があります。 

大阪大学医学部附属病院では、筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)や前頭側頭葉変性症(以下FTLD)を引き起こすたんぱく質TDP-43の研究が進められています。2020年には、神経細胞の軸索では、TDP-43が細胞内のたんぱく質合成装置(リボソーム)の機能維持に重要な働きをしていることがわかりました。このようなTDP-43に関する研究により、ALSやFTLDの発症機構の解明が進み、新たな治療法開発につながることが期待されています。 

京都大学医学部附属病院では遺伝性難聴患者に対して、遺伝子検査に基づいた治療法の開発研究が進んでいます。遺伝性難聴に関しては10以上の原因遺伝子が発見されており、治療法の研究が続けられています。同病院では、院内での遺伝子に関する治験を集約するために、遺伝病・遺伝子検査にかかわる診療を統一して行うための「遺伝子診療部」を設置しました。さらに耳鼻咽喉科領域では、遺伝の専門外来を設けて、遺伝子診療部と協力した「遺伝カウンセリング」を行っています。

出典:大阪大学医学部附属病院 筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)の核酸医薬を開発

  :京都大学医学部附属病院 難聴と遺伝カウンセリング

3. 予防医学

遺伝子検査の診断結果とともに各種疾病の疾患リスクを提示し、リスクの高かった疾病の予防対策として、どのような生活習慣改善が必要かを提示する取り組みは、さまざまな医療機関などで進められています。ただ予防医療の遺伝子検査活用は、疾患に関する検査だけではありません。アスリートのケガのリスクに関する対応まで進んでいます。

4. その他

上記以外にも、慶應義塾大学医学部附属病院では、妊娠中の女性に対する胎児の健康状態を調べるための「出生前遺伝学的検査(NIPT)」や、妊娠率の向上と流産率の低下を目的とした「着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)」などの提供が進められています。東京大学医学部附属病院では、精神疾患患者に対する遺伝子検査に基づいた治療薬の選択支援が行われています。

 大手病院における遺伝子検査の導入は、患者への質の高い医療提供、医療現場の効率化、患者満足度の向上、競争力の強化など、さまざまなメリットをもたらします。今後も、大学病院などの大手病院を中心に、遺伝子検査の導入が進むことが予想されます。

出典:慶應義塾大学医学部附属病院 「出生前遺伝学的検査(NIPT)」や、妊娠率の向上と流産率の低下を目的とした「着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)」

  :東京大学医学部附属病院 ゲノム診療部

当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」

このように遺伝子検査ビジネスが発展する中で、NTTグループでは遺伝子検査データの取り扱いを開始しています。当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock ®」は、健康診断や人間ドックで得られる「今の健康状態」に加え、「将来の疾患の発症リスク」や、「自分の体質」について知るための検査です。がんや認知症をはじめとした、約90の疾患や体質が分析できます。

多くの疾患は「遺伝要因」よりも生活習慣などの「環境要因」が大きく影響しているといわれているため、当社では検査結果とともに生活習慣改善のアドバイスを提供しています。

当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の検査結果レポート例

このような生活習慣改善のアドバイスにより、当社検査を実施した人の約60%が受診をきっかけに「行動を変えようと思うようになった」、半数の方が「バイタルデータを意識するようになった」と回答しています。(当社調べ)

また「Genovision Dock ®」のデータ活用としては、以下のような検証例があります。

肥満遺伝子を有する人のBMI25以上の割合が、本当に高いのかを検証した例です。

25歳時点でBMIが25未満だった人を対象に、15年後の40歳時点におけるBMI25以上の割合を、肥満遺伝子を有する人とそうでない人で比較して検証しました。データはNTTグループ同一組織内の5,000例を超えるメガスタディデータを活用しています。

検証結果は、肥満遺伝子を有する人の40歳時点のBMI25以上の割合は24.5%。肥満遺伝子を有さない人の12.3%と比較して約2倍高くなり、肥満遺伝子を有する人の肥満リスクが検証されています。当社では、このような多因子遺伝子疾患におけるエビデンスも示すとともに、医療機関での「遺伝子検査」活用の有効性を伝えています。

前述のように、患者にだけでなく医療機関にもメリットの多い遺伝子検査です。ぜひ、常に最新の知見にアップデートし続けている当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の導入を検討してみては、いかがでしょうか。

当社の遺伝子検査サービス「Genovision Dock®」の詳細はこちらをご覧ください。

遺伝子検査サービスにご興味ある方は以下よりお気軽にお問い合わせください 

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