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認知症基本法から考える「地域包括ケアシステム」の深化

公開日: 2024.04.17

健康増進分野

認知症基本法から考える「地域包括ケアシステム」の深化

目次

2024年1月1日、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らせるよう、社会全体で支えていくための「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(以下、認知症基本法)」が施行されました。認知症はもはや、認知症の人を介護する家族と介護事業者だけの問題ではなく、地域全体でどのように共生していくべきかを考えるフェーズに入ってきたということです。 

そこで、認知症と共生していくために、自治体はどのように「地域包括ケアシステム」を深化すべきなのか紹介します。 

認知症基本法とは

「認知症基本法」は、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らせるよう、社会全体で支えていくための法律です。2024年1月1日に施行されました。

日本国内の認知症患者数は、2030年に約744万人(有病率20.8%)、2060年には850万人(有病率25.3%)になると推計(平成28年版高齢社会白書)されており、将来的に65歳以上の高齢者4人にひとりが罹患すると考えられています。そのため、認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすためには、認知症の人の家族と介護事業者だけで支えていくことには限界があり、社会全体で支えていくための対策が必要と考えられているのです。

 

65歳以上の認知症患者数の推計

※平成28年版高齢社会白書より引用

「認知症基本法」では、認知症と共生するための支援体制の整備について示されています。そのため国は予算を確保し、地方公共団体は認知症施策の計画策定や支援を実施して、地域住民に対して認知症に関する正しい知識・理解を普及する責務があります。そして国民や民間企業も、認知症に関する正しい知識・理解を深め、認知症の人が尊厳と希望を持って暮らせる社会づくりに貢献する必要があるのです。 

この法律のポイントは、「認知症との共生社会の実現」を推進することです。

認知症の人や家族そして介護事業者などを支えていくためには、地域全体で認知症への理解と支援の輪を広げるための「地域包括ケアシステム」の深化が必要となるのです。 

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「共生社会」の実現に向け、自治体や企業が果たすべき役割

では、「認知症との共生社会」を構築するために、自治体や企業が果たすべき役割はどのようなことがあるのでしょうか。政府は、認知症と共生する社会の体制づくりについて、以下のような取り組みが重要であると示しています。 

社会参加と就労機会の確保

「認知症との共生社会」を構築するためには、認知症の人が社会参加を続けられる環境づくりが必要です。そのため、認知症と診断されてからできるだけ早く(高齢者は元気なうちから)、地域・社会・仲間とつながりを持てる居場所の設置と、社会の中での役割が重要です。たとえば通所介護で高齢者や認知症の人が社会活動に参加した場合に、謝礼などを受け取れる仕組みなどが期待されます。また企業においても、認知症になった従業員が本人の状態と意向に応じて、働き続けられる職場づくりが必要となります。働き続けることで、誰もが居場所や役割を持って暮らすことができるためです。 

認知症の人の意思決定支援・権利擁護

認知症の人が自分の意志で、自由に買い物や飲食、そしてさまざまなサービスを享受できることも重要です。地域の中で認知症の人が利用できるサービスマップとサービス支援の仕組みづくり、さらにサポートしてくれる人員の拡充が必要です。認知症の人の家族と介護・医療の関係者・成年後見人などが、チームとなって取り組みを進めることがポイントとなります。地域に密着した小規模多機能型居宅介護などが拠点となって、相談支援機能の充実や、地域の多様な主体と協働した交流の場づくりが求められます。 

認知症バリアフリー

認知症バリアフリーは、認知症になってからもできる限り住み慣れた地域で普通に暮らし続けていけるよう、生活のあらゆる場面で障壁を減らしていく取り組みです。2022年3月から「認知症バリアフリー宣言」が開始されました。企業・団体などが、認知症バリアフリーに対する方針を宣言することで、認知症の人やその家族の方が安心して店舗やサービスを利用できる環境を提供できるようになります。

「認知症バリアフリー宣言」への参加は、企業にとってビジネスチャンスにつながるだけでなく、従業員の介護離職防止にも役立つなど、経営戦略としての価値もあります。そのため自治体においては、認知症バリアフリー社会の機運を醸成することが大切であると考えられています。 

深化が不可避な「地域包括ケアシステム」の改善

このように自治体では、「認知症との共生社会」の実現に向けた「地域包括ケアシステム」の深化が求められています。どのような取り組みが進められるべきなのでしょうか。厚生労働省が、「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進」として、以下のような方向性を示しています。 

総合事業の推進

地域の中には住民主導のものも含め、さまざまな社会資源があります。生活支援コーディネーターなどが、これらの資源の発掘を行うことが重要です。発掘された資源は、ケアマネジャーなどが主体となって活用に向けた調整を行い、医療・介護サービスとともに包括的な支援に結び付けることが重要です。 

介護予防や社会参加

住民が地域で長くいきいきと暮らし続けることができるよう、介護予防の取り組みを進めることも必要です。その際に、サービス提供者と利用者とが「支える側」と「支えられる側」という画一的な関係性に陥らない発想が大切です。なぜなら、高齢者の社会参加によって、世代を超えて地域住民が共に支え合う形がつくられ、高齢者の居場所と役割を持つきっかけになると期待されるからです。 

地域包括支援センターの体制整備と地域共生社会づくり

今後、認知症の人や要介護高齢者は、「単身・夫婦のみの世帯」の増加が見込まれています。そのため家族などの介護者の負担軽減や、それぞれのケースに対する多様な課題への対応が重視されています。地域住民の総合相談支援を担う地域包括支援センターでは、体制強化や環境整備を行うことに加え、障がい者福祉や児童福祉といった他分野の相談窓口との一体的な設置や連携の促進が重要となります。 

このように厚生労働省では、縦割りでの対応から横断的な対応が必要になると述べています。厚生労働省老人保健健康増進などの事業の一環として発足した「地域包括ケア研究会」においても「2040年:多元的社会における地域包括ケアシステム」で、「地域包括報酬※」や「新たな複合型サービスの開発」の必要性が語られています。

※「地域包括報酬」は、これまでの介護事業者などへ個別に利用料を支払うスタイルではなく、地域の介護事業者に包括して報酬を支払うシステムのこと 

これまでの縦割りの発想から脱却して、世代や役割を超えた包括的な取り組みで、「地域包括ケアシステム」を深化させる必要がでてきているのです。

 

※地域包括ケア研究会「2040年:多元的社会における地域包括ケアシステム 」資料より引用

自治体における取り組み事例

では、実際に自治体は認知症との「共生社会」に向けてどのような活動を行っているのでしょうか。認知症の支援・啓発に関するリーフレットの配布や、認知症サポート事業者の認定、認知症カフェの運営などを行う自治体は多いのですが、もう一歩踏み込んだ取り組みを進めている自治体の事例を紹介します。 

脳とからだの健康チェック

埼玉県三郷市や愛媛県西条市では、タブレット端末を使用した「脳とからだの健康チェック」活動を行っています。 

認知症を予防するには、脳とからだの活動量を増やすことが大切とされています。

そこでタブレット端末を使用して、現在の記憶力や注意力をはじめとする、ご自身の認知度を確認するものです。タブレットでの認知度チェックが完了すると、歩行速度の測定や専門家によるアドバイスが行われます。 

現在の状態を把握して生活習慣を改善し、定期的に検査を受けていただくことは、予防や早期発見につながります。早期発見ができれば、早い段階から地域社会全体での対策につなげることができるようになるため、効果的な施策であると考えられています。 

出典:埼玉県三郷市 脳とからだの健康チェック

  :愛媛県西条市 脳いきいきチェック

在宅ケア支援アプリにおける、地域通貨へのポイント交換

宮崎県児湯郡都農町(こゆぐんつのちょう)では、在宅ケア支援アプリを導入しています。ケアを受ける本人・家族とヘルパー・ケアマネジャーなどの専門職人材が、日々の出来事やバイタルデータを共有すると共に、アプリ上のコミュニケーションを通じて互いに応援し合える仕組みを構築しました。

そのアプリには町民も参加することができ、アプリ上での声掛けや生活の見守り行動に対してポイントが付与されます。そしてそのポイントは、地域通貨として利用できるようになっています。このように、誰が誰を介護するという「担当者」という概念から、地域全体で見守りを行い、その見守り行動が地域通貨を通じて、地域活性化につながるという新たな取り組みとなっています。 

出典:宮崎県児湯郡都農町 在宅ケア支援アプリ

認知症フレンドリーシティ・プロジェクト

福岡県福岡市では、「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」と総称した、認知症の人が住み慣れた地域で安心して暮らせるまちづくりが進められています。 

たとえば「認知症にやさしいデザインガイドラインの策定」では、外出先などの多くの建物で認知症の人にもやさしいデザインを取り入れるためのガイドラインを示しています。また行方不明になった認知症の人の早期発見・早期保護のために、省電力で軽量小型の機器を用いた見守りの実証実験や、ICTを活用した就労支援などの取り組みも進められています。

その他の自治体でも、高齢者が一定数以上となるサークルに対して補助金を支給し、地域内でのコミュニケーションや見守りの活性化を促す取り組みや、商店街の空きスペースを提供して認知症カフェなどの高齢者がコミュニケーションできる拠点を増やす取り組みなどが増えてきています。 

出典:福岡県福岡市 認知症フレンドリーシティ・プロジェクト

「遺伝子検査」を認知症との共生社会に生かす

このように自治体においても、認知症との共生社会の構築のために、さまざまな取り組みが実施されています。そのような取り組みを生かすためにも、認知症を早期発見して、早期にケアを開始することも重要だと考えられています。 

近年、認知症との共生社会を築く上で「遺伝子検査」は、予防や早期発見において重要な役割を果たしています。 

アルツハイマー型認知症は、アミロイドベータペプチドという老廃物が脳内に蓄積し、神経細胞がダメージを受けることで発症します。このアミロイドベータペプチドの蓄積に大きく関わっているとされているのが、「ApoE遺伝子」です。この遺伝子には6パターンの遺伝子型が確認されていますが、それぞれの型でアルツハイマー型認知症のリスクが算定されています。最もリスクの少ないε2/ε3型は0.6倍であるのに対し、最も高いε4/ε4型は11.6倍となっています。

遺伝子検査で認知症の発症リスクを把握することができると、リスクが高いと結果がでた方には、生活習慣の改善のためのアドバイスを行うことで発症を遅らせたり、定期的な検診などで、早期発見を心がけたりすることができます。

認知症は初期段階では症状がわかりにくく、診断が難しい疾患のひとつです。しっかりと専門家の診断を定期的に受けることで、早期治療が可能となります。近年はアルツハイマー型認知症に対する投薬も可能となってきていますので、早期発見ができれば、症状の進行を遅らせる可能性が期待できます。 

また遺伝子検査が認知症との共生社会において果たす役割は、予防や早期発見だけに留まりません。検査によって得られた遺伝子情報は、個人を特定できる情報を削除したうえで、新たな治療法や医学の進展に寄与するデータとしても活用されます。継続的な研究によって、発症メカニズムの解明や予防法の理解が進み、より効果的な対策につながると考えられています。 

現在、自治体の高齢者支援は、75歳以上の後期高齢者への支援が中心になっていますが、「予防対策」という視点においては、75歳未満への支援も重要になると考えられています。

NTTライフサイエンスの遺伝子検査ビジネス

当社は、介護予防サービスの一つとして、要介護4大原因(認知症・脳血管疾患・フレイル(衰弱)・骨折転倒(骨粗しょう症))について、各疾患において、個人のリスクを判定する、「リスク判定アルゴリズム」の開発の検討を進めています。判定リスクに応じた個別最適化された予防施策を実施することにより、効率化およびモチベーション向上・行動変容を促進することで健康寿命増進への寄与をめざします。

当社のサービスなどにご興味のある方はお気軽に以下からお問い合わせください。

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